彼女と出会ったのは27の時だった。
マスコミから美人秘書ともてはやされていた彼女を私は快く思っておらず、その議員と交際中との噂を聞いた時は心底失望した。
こんなことで注目される輩が国を支えていけるのか、と。
何より、五十歳の男と三十歳の彼女が本当に付き合っているのかと疑いの念さえ抱いたものだ。
「助けて! 熊田さん」
そして、私の勘は当たったのだ。
縋るように見つめる彼女の瞳は潤んでいた。
報道から半年が過ぎたころのことだ。
彼女の話によれば、男に酒の席に誘われては毎回出席しており、その日も一緒に行ったそうだ。日頃から好意を持たれていたことに気づいていながらも断れなかったらしい。
酔った勢いで迫ってきた奴は、いきなり彼女に淫ら行為をしてきたという。さらには、その様子を写真に撮り、自分と交際しなければそれを彼女の友人にバラ撒いたうえでクビすると脅してきたそうだ
その話を聞いて私は憤り、奴の口から真実を吐かせるよう協力すると言ったが、彼女はそれを望まなかった。
「話を聞いてもらったら、落ち着きました」
そう言って晴れやかな表情を私に向けるだけだった。
その後、彼女は自らマスコミに真実を告発。
"国民裁判"で彼女の記憶の映像と、この街の監視ロボの証言により立証。奴には、彼女への罰金200万円の支払いと、不倫を知った妻の精神状態を考慮し、強制離婚が言い渡された。
この裁判は弁護士・検察官・検事などのかつて専門職が介入せず、国から選ばれた数人のプロフェッショナル"裁判師"がそのすべての役割を担うもの。事件の種類を問わず採用されており、弁護士はこの制度を知らないごく一部の在日の者から依頼を受けるのがその当時の現状だった。
女性を守ろう―また、日本は半世紀前にこのスローガンを掲げ、法改正を行った。ストーカー行為や性犯罪を犯した罪として被害者側から最高で三年の懲役を求刑、または五十万円以上の罰金請求が認められるようになったのだ。
裁判終了後に奴は除名処分を受け、国会を去った。
それから辰美が衆議院議員なった後も、彼女と私は同じ党の仲間として交友を深めていった。
「龍二さん、私と一緒にデートしませんか?」
「こんな私でいいのか? 楽しくないと思うが?」
「いいですよ、私が楽しませてあげるから!」
私は自分を受け入れてくれる女性に初めて出会えたのだ。
そして、当日―十二月二十三日。出会いから三年後の初デート。
彼女が苦しい過去の恐怖を乗り越え、自ら誘ってくれたことが心から嬉しかった。なので、少し浮かれすぎていたのだと思う。今、思い返してもあの日の自分の失態は忘れられない。
―See You Next