僕は止めたんだ。
僕は何も悪くない。
「ねぇ、クマさんってサングラス外したらどんな顔してると思う?」
完成したカレーの味を見てもらおうと官邸へ向かっている最中に、キョーちゃんがふとそんなことを聞いてきた。
確かに気にはなっていた。
だが、僕は知っている。
それは絶対に解いてはいけない謎であることを―
僕は何度も止めたんだ。
僕は絶対悪くない。
そして、彼女も悪くない。
悪いのは彼女の悪戯に旺盛な好奇心と、椅子にもたれて安らかに眠るクマさんだけだ。
そして、彼女の手が優しくサングラスに触れる。
僕は息を殺して、彼女の横に突っ立っているだけ。
徐々に露わになるクマさんの顔。
あと少し―頭に激痛が走ったのは、そう思った直後だった。最後に見えたのは、キョーちゃんのドヤ顔だ。
「放してよ! クマさん。これやりすぎでしょ!!」
キョーちゃんの叫び声で目が覚めた。
隣を見ると、僕の彼女が全身に細い糸のようなものを巻きつけられ、天井から吊るされている。
どうやら僕もだ。
「ちょっと!これホントに痛いって…許してよ、クマさん」
「黙れ! 人の寝こみを襲うなど最低だ!!」
「サングラス外そうとしただけじゃない! それに一瞬だけ見えた目、可愛かったよ」
「黙れと言っているだろう」
怒るクマさんの手の動きに呼応して、縛る力が強くなっていく。
「素直に謝ろうよ、キョーちゃん」
「嫌!!」
キョーちゃんは頬を膨らます。
子供か、アンタは。僕だって痛いんだぞ!
全然可愛く…ない…?
いや、可愛いか?
「もう、こんなことするならこの前使ってた通信機で奥さんに言いつけてやるんだから!」
「何故、浩巳(ひろみ)を知っている?」
クマさんの顔が少し歪む。
「ほら、あれ」
奥に見える本棚に、笑顔で写る家族写真が置いてあった。
―See You Next