こんな見下ろされることってあるんだ。私から見ても顔がやっと分かるくらいなんだから大男から見た私は米粒くらいにしか見えないんだろうな。
「もう一度聞くぞ。お前はあの女の仲間か?」
「あ、違うよ。あのあばさんは私たちの敵で味方はこの四人だもん」
「本当か?」
明らかに信じていない白髪マッチョから振り向いて証拠をみせてあげる。
「ほら」
「おい、こんな奴ら見たことないぞ」
「俺たちとは違うニオイがする」
「敵襲か?」
「あの子、小ちゃくて可愛い~♡」
「他に仲間もいるみてぇだし、油断しないほうがいいぜ。もしかするとアイツらは『人間』かもしれねぇ」
「「「「人間!?」」」」
「あぁ、アイツらは俺たちの仲間である魚を獲って大量に食べると聞いたことがある」
大男二人に気を取られて気づかなかったけど、人がどんどん集まってきてる。どうやら歓迎はされてないみたい。
「私たちは敵じゃないよ! たまたまここに連れてこられただけで」
「誰に?」
細長い髭を左右に一本ずつ生やした茶色い体のオジサンが私の言葉を遮った。
「”琥璽羅(くじら)”だよ」
「くじらぁ!?」
髭を優しく撫でていたオジサンは、その目を大きく見開いて固まった。
「えぇぇぇ~~~?!」
代わりに響いたのは周りにいた人たちの大合唱。
「そんなはずはないぞ」
しばらくしてから、みんなを代表するように「弟」って呼ばれてた大男が落ち着きのある声で言い切った。
「我々、海底人にとって”琥璽羅”は伝説の生き物言い伝えられてきた。そして、それが現れる時は災厄の予兆だと聞いている」
「さいやく?」
「お前の言葉が真実ならば、やはり――」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
問い詰めるように迫る白髪マッチョに言い返したけど、威圧感で声が裏返っちゃった。
「さっきから言ってるように私たちは襲いにきたわけじゃない。だいたい『海底人』って…あなたたち何者なの?」
短いため息をついた後、長くて黒い棒を持ったままの白髪頭の兄は私を見下ろす。
「我ら兄弟は竜宮城の門番だ。ウバザメという種にあたる。ここにいる海民(かいみん)たちは皆が人間に見つからぬよう、海底で細々と暮らす種族。しかしながら、言語を話せる”嘉邁(かめ)”――現在の長の先祖が人間と関わりをもったことが海底人たる我々すべての始まりと聞く」
「何その話! もっと聞かせて!!」
面白そうな話に期待しかけた時、空気が変わった。
「兄様、話は一旦中断しよう。例の女がこちらに向かってきている」
弟が静かに指差した方を振り返ると、おばさんと目が合った。私を取り囲んでた人たちは慌てて逃げ出し始める。
「女性を見て逃げ出すなんて失礼な人たちね!」
「敵でないと言うならば、我々と共闘してあの女を討って見せろ」
「言われなくても分かってる。倒したら、話の続き聞かせて!」
「いいだろう」
私の前に立っていた大男・兄の隣に並んだ。
「傑君、リッキー、彩華さん、ココロ! もう十分休めたでしょ? 目覚めて早々悪いけど全力でいくよ!」
「志ある者は武器を取り、我々に続けぇ!!」
兄の号令で、その場の全員の視線が一点に集中する。
随分といきり立ってるみたいだけど、大した数じゃないわね。
「”龍竜巻(ドラゴン・ストーム)”!!」
ウルミの高速回転によって生み出した竜巻は、私の意思で自在に操ることができるのよ。
「乗せてね、ドラゴン。これでおチビちゃんへひとっ飛び」
おばさんが何かに飛び乗ったのが見えてからは一瞬だった。
その場にいた三十人くらいを一気に巻き上げ、周囲の大気を震わせる。ウバザメ兄弟は後方の風よけになりつつ、必死に耐てた。
「弟よ、この場は私に任せてアナゴたちへの招集を頼む。各所配置に就かせておけ」
「賜った」
私たちと、その側にいた十人くらいはリッキーが巨大な壁になって守ってくれた。
「へぇ、巨人化とは面白い能力だねぇ。でも、あんたの相手をしてる暇はない。見たことない種族とも遊んでみたいしね」
そう言っておばさんはリッキーの巨漢から放たれる打撃を軽やかに躱しながら、その距離を詰めてきた。白くて細長い乗り物がリッキーの目前で姿を消す。
「ッ!」
「みんな離れて!」
リッキーの様子がおかしくなったのはそれからすぐのこと。
「うおおっ!?」
一歩下がってきたと思ったら急によろめきだしたの。
「いくら巨体でも、バランスを崩せば何もできない。他に特化してることも無さそうだし。あの西洋風の城で待ってるよ、おチビちゃん!」
そう言っておばさんは壁を突破して竜宮城に近づいていく。私と傑君で後を追うことに。
「逃がさんぞ」
兄も続く。
「驚かせて悪かったな」
元の大きさに戻って、気まずそうに頭を掻くリッキーに一安心。
あの時、低空飛行したおばさんがリッキーの足元を切りつけて風で浮かせたのが一瞬だけ見えた。
「怯むな~!」
「私が呼ぶまで少し休んでな、ドラゴン。手厚い歓迎に応えてくるから」
だいぶ減らしたつもりだけど、まだこんなにいたのね。
「悪いけど私が興味あるのは強い奴だけよ。しごかれたいってんなら別だけど」
「何だあの異様に伸びる鞭は!?」
まずは中央を大まかに掃除して、
「取り囲んで一斉にかかれ」
次は視野を広げて隅から隅まで抜け目なく。
「痛っ! 今、どっから小刀出しやった?」
「ボーッしてんじゃねょ! まさか、あの女に見惚れてねぇよな!?」
「うるせぇ、バーカ! お前のがアホほど刺さってんじゃんか!!」
「俺の剣がない!?」
「俺もだ」
「我の前は通さん!」
大きいゴミは縛り上げて後回し。
「何だこれは…前が見えん!?」
「ちょっとくらい覗いたっていいじゃない? おいで、ドラゴン!」
しつこい汚れは徹底的に。
最後のチェックも忘れ…って、子供までいるわ。もしかして、カメじゃない?
「止まって、ドラゴン」
「坊ちゃんは下がっててくだせぇ」
「嫌だ! 僕がみんなを守るっ!!」
強がりな子ほど、イジワルしたくなっちゃうわよね。
「――こんにちは、カメさん。あのね、ちょっとお願いがあってお姉さん来たんだけど」
「悪いおばちゃん来た~!」
・・・・・
「僕、全部聴いてたもんっ! 今も顔怖いし。とにかく、ここは僕が通さない」
「それじゃあ、お姉さん困っちゃうからさぁ~、とりあえず…死んで」
飛び下りた!?
「え?」
―――ッ!
傑君には悪い事したけど、そのおかげでなんとか間に合った。
「あら、意外と早かったわね」
少し驚いてから、おばさんは短剣を握る手に更なる力を込めたのが私の刃物(ナイフ)化した右手にも伝わってきた。ここで競り負けるわけにはいかない。
「お姉さん、誰?」
「潤美。君の味方だよ」
「ぐっ…離せ!」
押しやられそうになった直後、ふわっと一瞬だけ押し返せた感覚があった。
「潤美は、その子を安全な場所へ!」
声に振り返ると水に保護色した彩華さんが、背後からおばさんを取り押さえてくれていた。バレないように目だけで合図して移動。別れ際、笑顔でお礼を言ってくれた。
戻ってきた時には姿を現してたけど、おばさんの鞭は彩華さんの長い舌に相殺されることに。
「おわぁぁぁ~~~~~!!!」
分を悪くしたおばさんがドラゴンに乗って竜宮城に入ろうとしたところを止めに行ったけど、やっぱり強風には勝てなかった。
「痛っ! ちょ…私の上に乗らないでよ、ココロ!」
「いや悪いね。おかげで痛くなかったよ」
「いいから早く退けて。みんなも大丈夫?」
私たちが竜巻から吐き出されるように辿り着いたのは石みたいに硬い地面の上。
無事を確認して立ち上がると目の前が柵に覆われていることに気づいた。
「おい、潤美。あれ見ろ」
リッキーに呼ばれて柵から身を乗り出す。
揺れてる綺麗なフニャフニャの色合いが最初に見た時と違うから建物を三つに分けた内の左側から見てるってことか。
「お前、何ボーッと下見てんだ?」
「ん? いや、現在地の確認だよ。思ったより飛ばされてなくてよかったな~、って」
「それより、あそこ見ろって何か下りてきたぞ」
岩場の前に下り立ったのは、さっき助けた子と見た目がそっくりな海底人。その証拠に背中に丸くて大きなものを背負ってる。
「何事じゃ?」
「おじいちゃん!」
「長、非常に申し上げにくいのですが――」
何て言ってるか聞こえなかったけど、雰囲気的に一番偉っぽい。あの子が嬉しそうに抱きついてるから親戚なのかも。
「無事だって分かったし、おばさん探さないと!」
「え~、ちょっと待てよ。また人が集まってきたぞ。なんか始まるのかも」
みんなが回復するまで、ちょっと待っても動かなかったから強引に柵から引き剥がしたよ★
ついさっきまでドラゴンにしがみついてたみたいだけど、どっかに吹き飛んだみたいね。
「ご苦労様、ドラゴン」
久々に呼んだらハイテンションで暴走しかけたけど、門番も出払てて余裕で突破できた。
「何ここ?」
薄暗いのは当たり前だけど、やたらと天井まで伸びる柱が多いわね。城って、こんなものなのかしら?
(こちら、リュウグウ。隊長、女を発見しました)
(分かった。私はアナゴの子を匿いつつ、様子を見る。よきタイミングで先陣を切ってくれ)
(了解)
「とりあえず、手前の部屋を回ってみようかしら」
ちょっと騒がしくなるけど、夜じゃないからいいわよね?
(アンコウ、聞こえたか? お主も彼に続け)
(分かったけど…隊長さんよ、俺たち何であんな分け方されたんだ?)
(私に聞くな。長の指示だ)
(ふ~ん。アンタは本当にそれでいいですか?)
(…当然だ)
何だよ、今の間。
「みなさん、こんにちは!」
まずは、挨拶が基本よね。
バ―――!!
―――ヒュッ!!!
「?」
「お前のような輩は呼んでいないのだが」
「あら、失礼ね。客人への態度が成ってないわ」
―See You Next