ここで死ぬわけにはいかねぇんだ。
「くそがーっ!」
足元を狙えば動きは止まる。
ドゥンッ!
ドゥンッ!
バチッ!!
「そんなのアリかよっ!?」
電撃で相殺しやがった。
「ありがとう、クルクルさん」
こうなりゃ、正面からギリギリまで突っ込んで嬢ちゃんを殺す!
完璧にすり抜けてやるぜ。
「うおぉぉっ!! ”闇土竜(モル・ヴァニッシュ)”!!」
「面長さんが消えたっ!?」
やっぱり、この未来は現実になるんだ。
――消えたんじゃねぇさ。高速で死角から接近してだよ…あと少し。
「みんな密着して待機。パオくんは鼻、モウさんたちは突進の準備! クルクルさんは電気を溜めといて! 他の子たちも援護よろしく」
「もう、京子ちゃん…急に止まらないで!」
「……アハハ! ごめん、ごめん」
「笑い事じゃないよ…しかも今『いたっけ?』みたいな顔したよね!?」
「そっ、そんなこ…」
嘘だ。
「あっ、いや、そんなに怒らなくても…」
やっぱり。
――ここだ!!
「来る! クルクルさん、放電お願い!!」
「二度も同じで手くらうかよ!」
「あの速さを避けるなんて」
ここなら狙えるぜ。
「俺の身体能力なめんなよ」
ドゥンッ!
ドゥンッ!
「赤ザルくん」
「京子ちゃん、危――っ!」
「まりあちゃんっ!」
「ぐっ…!」
電撃を回避した面長さんは、背面跳びの背中を反らした格好で顔をこちらに向け発射。
予知では、電撃が掠った直後に赤ザルくんの炎で畳み掛けて無力化できてたのに。また未来が外れた。
「まりあちゃん、大丈夫?」
「そんな顔しないで。私は大丈夫だから…それより、落ち着いてね。京子ちゃんは強いよ、武器で戦おう」
「でも…」
「ちっ…またアンタかよ」
声に気づいて振り向くと、ちょうど馬面さんが着地したとこだった。
「用があるのは眼鏡の嬢ちゃんだけだっての」
大げさなに両手を広げて凹んで見せる。
「どうして、こんな…」
「ヒャハハ」
―――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
冷酷な眼差しに息を呑んだ刹那、目の前の光景は一変した。
「え?」
そんな息が洩れた気がする。
「これが答えだよ。隠れたり、動物操ったりして嬢ちゃんが相手してくれなかったからさ」
「ひどい…私、他の仲間を」
「待って、まりあちゃん」
冷静になろうとしたけど、やっぱ無理だった。
「私を一人にしないで」
まりあちゃんの肩に縋るのが精一杯。
「分かった。もう限界みたいだから、パオくんから下りてあげよう」
バオォォ~……ン。
「ありがとう。よく耐えたね」
力なく横たわる動物たち。
その子たちを護るように”鍍良(とら)”と”娑屡(さる)”が猛る。
彼らが再び立ち上がることはなかった。
銃声が今も耳の中で鳴り響いている。
「あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
泣き声が、喉を押し潰すように絞り出した悲鳴に変わった京子ちゃんを抱き止めることしかできない。
彼女の心中を察するように雨音が鳴り始めたのは悲鳴の直後のこと。
優しく、静かに、その背中を労わるように。
*
私が動物のみんなを殺した。
何の罪も無い子たちの命を奪ったんだ。
結局は、私も馬面さんと一緒だね。
(君は悪くないさ。僕らは君に賛同して力を貸しただけのこと)
(そうさ。悪いのはあの馬面男だ)
(当たり前じゃない!!)
(俺たちもそう思う)
「パオくんにクルクルさん、モウさんたち…どうしたの?」
(俺たち君に想いを伝えにきたんだよ)
(そうだ、私たちの仇を討ってくれ!)
(アナタならできるわ!!)
(許せない奴は殺せ!)
(敵なら立ち向かわないと!)
「確かにそうだよね」
(敵を許すな!)
(許すな!)
(許すな!)
許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな許すな。
*
あとは私がなんとかしないと――覚悟を決めて正面の敵を睨みつける。
「なんだよ、ゆるふわ嬢ちゃん…先に死にたいか?」
今は私かしかいない!
銃を向けた直後、上から京ちゃんの手が覆い被さった。驚いた私は、押されるままに銃身を下ろしてしまう。
「無駄死にはしたくないだろ。 覚悟がない目で俺は撃てないぜ」
「許せない。絶対に許さない!!」
俯いたまま、唸るようにそう吐き捨てた京子ちゃんの目は憎悪に満ちていた。
「お? ようやくお目覚めか。待ちくたびれたぜ」
私の肩に手を置いて呟いた言葉を最後に、彼女は敵の方へ歩き出す。
「馬面さんの敵は私。他に誰も傷つけないで」
「いい目になったな。嬢ちゃんが逃げなければいいだけのことさ」
唇を吊り上げて彼は愉快そうに続ける。
「そういえば、何で他の仲間が現れないか気にならないか?」
「……」
「俺が殺したからさ!」
――目の前の空気が鋭く突き刺さる気配があった。
ブホォン!
ブホォン!
ブホォン!
ドゥンッ!
ドゥンッ!
ドゥンッ!
間合いを詰めたつもりだろうが、俺のほうが速いってんだよ。余裕で撃ち落とせるぜ。
弾丸が相殺しあい、風圧が周囲を荒らす。
私に届いたのは金属音だけ。風圧に耐えながら、彼らを追うので精一杯。
ドゥンッ!
ドゥンッ!
「許さない」
体を左右に揺らすだけで躱しやがった。
一旦、距離とるか。
「積極的な女は嫌いないけどよ」
ドゥンッ!
―――
消えた!
(次こそ当てる)
………
落ち着け。
ブホォン!
ブホォン!
――遅い。
――見えた。
ドゥンッ!
ドゥンッ!
「”未来変革(マイン・フッーチャー)/追尾弾道(ボルスティック・オート)”」
避けても追ってきやがる。
「どうなってんだよ!?」
「はぁはぁ…背中向けたらダメだよ、馬面さん」
―――っ!
「ぐはっ!」
止まるな。
「”未来変革/鈍重弾丸(スロー・ブレット)”」
――いつの間に詰めてきやがった。
――思ったより効いてない。
ドゥンッ!
避けられる――確信して片足で跳んだ時、目の前が霞んだ。
「ぐっ…!」
――この弾丸にすべてを込める!
ブホォン!
気力だけで引き金を引いた。
直後に襲いかかった目の激痛には心当たりがある。
ふらつく体が冷たく感じ、地面に倒れたことをようやく認識できた。
迫る不規則な足音。
「終わりだ」
いつになく落ち着いた馬面さんの声。
ブホォン!
その銃声を聞くことはなく、私に残っていたのは脱力していく感覚だけだった。
朧げな視界が、まりあちゃんの後ろ姿を映した気がした。
―See You Next