DAY 22 正しい銃の使い方

 

 この人は確か、クラゲちゃんが海岸に連れてきた敵の仲間の一人。

「あなたは…馬面さん?」

 ヌルヌルにされてた人に間違いない。

 一見すると優しそうに見えるけど、その笑顔の裏に何かを隠していそうで思考が読めない。

「変なアダ名つけるなよ。俺の名はラージだ!」

 絶対、気を抜いちゃダメだ。

「……馬鹿にする割に、銃を持つ手が震えてるぜ?」

 相手は暗殺のプロ。

 今まで何人もの人を殺してきてるから、その死体を目の当たりにしても平気な顔で踏みつけて道を歩いてきたはず。目的を果たすためなら、どんなことをしてくるか判らない。

 そんな人に私が勝てる?

 それに、もしこの銃で殺してしまったら――

「こんな戦いやめませんか?」

 脳裏を過ぎった最悪の映像を掻き消すために振り絞った言葉に、馬面さんは両手を広げて首を振る。

「まだ始めてもいねぇのに、どうした?」

「!」

 銃を突きつけられて一気に現実へと引き戻された。

 私たちの間を流れる川のせせらぎが嫌に耳に付く。

「私は撃ちたくありません」

 その速度に合わせて、胸の鼓動が徐々に大きくなっている気がした。

「ほぅ。死にかけた時、もう一度、今のセリフを言ってくれよ」

「私は誰も傷つけたくないだけです」

「ヒャハッ…嬢ちゃんは勘違いしてるみたいだな」

 私の言葉を聞いて、楽しそう口角を吊り上げた。

「俺たちは『人殺し』じゃねぇよ。一つの目的を達成するための”過程”に殺しがあるってだけで、快楽が目的の殺人鬼とは違うのよ」

「……あなたたちの目的は?」

「あ~、詳しくは言えねぇんだけど…『ヒーロになること』だな」

「ヒーロー?」

「あぁ、そうだ! このミッションに成功すれば、俺たちゃインド民全員の英雄になる。どうだ、カッケーだろ?」

「……」

 両手を大きく広げて興奮した様子で投げかけられた言葉に、私は何も返すことができなかった。

「聞こえてんだろ? 何か反応してくれねぇと寂しいじゃねぇか」

 この人たちの目的はよく解からないけど、

「もう一度聞きます。こんな戦いやめませんか?」

「だから、つまんねぇこと言うなって。楽しくやろ~ぜ♪」

 どうしても戦うしかないってことと、負けたら取り返しがつかないことなるってことは、対峙する目が語っていた。

 やるしかない。

 神経を集中させ、未来予知を発動させるとその瞬間はすぐにやってくる。

 

 バシャッ!!

 バッシャ~ンッ!!!!

 

「何!?」

「いっ……!」

 先手を取ったものの、腕への反動のあまりの痛みに驚いて足が止まる。

 水飛沫が消える前に隠れる場所を見つけないと――

 腕を押さえつつ、走っている時ふと思いついたのがマントだった。

「大丈夫、きっと飛べる!」

 体の力を全部抜くイメージで地面を軽く蹴る。

 さっきはパニックでどうしようもなかったけど、飛ぶのは全然難しいことじゃない。

 飛べ、私!!

「一本取られたぜ、嬢ちゃん」

「……」

「あれ? 消えた」

 

 なんとかあの場からは逃れたけど、これからどうすればいいかな?

 飛びながら逃げると目立つし、腰を屈めて距離を取ろう。迷ってるとすぐ追いつかれるから素早く動かないと。もうすぐここに来る。

 とにかく、走れ!

 けもの道を探しながら進んでいくと、たくさんの木々に囲まれた開けた場所を発見。ここならそう簡単に来れないし、木を盾にしながら、時間は稼げそう。

 あの人が近づいてきてる未来は見えるけど、距離はだいぶ離れてる。

「体力には、あんま自信ないな~」

 

 ひと息ついて、右腕のバンダナに表示された数字に視線を落とす。

 四十八。

 これは残りの弾数。

 

≪"放射銃(レディエイト・ガン)" No.002 使用者・神楽坂京子を認証。

この銃は、生命エネルギーを、そのまま弾丸として発射する。使用中は連結するチェーンを介し、体内から常にエネルギー供給が行われているため、注意するように。それでは、よいサバイバルライフを。グットラッグ★≫

 

 そういえば、あの穴に吸い込まれる直前こんな電子音が聞こえたけど、夢じゃなかったんだ。

 

「ったくよ、まさかこんなとこ逃げ込んでねぇよな? こっちはゲームじゃなく、仕事で来てんだぜ。プロをナメてもらっちゃ困る」

 ――来た!? でも、どう考えても早すぎる…。

 しかし、ここらはどこ行っても歩きずれぇな。インドのジャングルよりも草が体に纏わりつく感じだ。

「おいおい、マジでいたぜ!」

 やっぱ、プロからは逃げられねぇってことよ。

 特に何の恨みもねぇが、こっちも仕事だ。

 

(両足!)

 

 ドゥンッ!

 ドゥンッ!

 

「よし、これで…?」

 嘘・・・・・だろ?

 軽々と左右に躱しやがった。あれを避けるなんて背中に目でもついてるみてぇだ。

「くそっ…ギア上げてくか」

 

 ドゥンッ!

 ドゥンッ!

 ドゥンッ!

 

 こんなのキリがない。何かで敬遠しないと!

 

 ブホォン!

 ブホォン!

 

「おらぁぁ! もう、逃がさん!!」

 並ばれた…!

 

 ドゥンッ!

 ドゥンッ!

 ドゥンッ!

 ドゥンッ!

 

「あっ…!」

 避けれなかった。未来視に不慣れで正確に弾道が読めてないのかな?

「今までよく避けられたな。嬢ちゃんも能力者か」

「……」

 もっと奥の茂みで息を整えないと。

「隠れても無駄だって。一度視界に捉えた標的は絶対に逃さないのがスナイパーの鉄則。だから能力じゃなくても、だいたいは気配で判んだよ」

 もう追いつかれた!

「私は人を撃ちたくないんです!」

「今更、甘っちょろいこと言うなよ。自分が死んじまうぜ?」

 あの人に当たる未来も見えない。こうなったら――

「お? やっとやる気に…ヒャハハハッ!!」

 

 ブホォン!

 ブホォン!

 ブホォン!

 ブホォン!

 

 ――腕がっ…!

 

「あ? 嬢ちゃん、どこ狙ってんだ?」

「……気配、感じませんか?」

 

!?

 

「うおおぉぉ~~~!!!」

 たった五発でこんな木を――?

「くそ…潰されてたまるか!」

 やっぱり速い!!

「はぁはぁはぁ…やりやがったな!」

 

 ――ウキキッ!!

 

「おっと、グッドタイミングだ!」

 聞き覚えなのある声に振り返った直後、心臓が止まった気がした。

「嬢ちゃん、この娘知ってるよな?」

「まりあちゃん!!」

 その光景を目の当たりにして完全に思考が停止する。

 急な吐き気が襲ってきた。

「嬢ちゃんの弾が当たらないのは迷いがあるからさ。人を殺すのが怖い? じゃあ、俺が見せてやるよ…これが正しい銃の使い方だ!!」

―See You Next

スマホからこんにちは!

荒木テルと申します。小説家志望の29歳です。

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