DAY 14 “八咫鴉(ジャイアント・クロウ)”

 

 彼の気配を見失わないよう、全力で追いかけます。

「早く撃ってきなよ」

 その声を頼りに銃を構えても、スコープに彼の姿は映りません。それ以前にスナイパーライフルを走りながら撃つのは無理です。

「止まれっ!」

「いいよ」

 思わず叫んだ途端に彼の気配は消えてしました。

 ゆっくりと速度を緩め、『竹』を盾にできる位置に潜り込んでライフルを構えます。

「さて、僕はどこでしょう」

「いい加減にしろ」

 

 バヒョンッ!

 バヒョンッ!

 バヒョンッ!

 

 手ごたえはありませんでした。乾いた破裂音とともに正面の竹数本が一気に燃え上がります。

「全然当たらないね。タイムリミットはあと十分」

「くっ…!」

 完全に遊ばれています。

「あっ、言い忘れたけど…あまり無闇に撃つと動物たちが怒るよ」

 

 バヒョンッ!

 

 背後の殺気に振り向いて一発。

 当然彼の姿はありませんでした。

 体に軽い揺れを感じたのは、それから数秒後のことです。

 「だから忠告したのに。面倒だな」

 目を光らせて突進してきたのは死鹿の大群。山から下りてきたのか琥麻(くま)も数頭連なっています。先ほどの爆発音に驚いたのか、明らかに興奮しているのが解かりました。

「このままじゃ、踏みつぶされる…”形体変形・鴉(フォルムチェンジ・クロウ)”」

 この能力は使いたくありませんでしたが、やむおえません。銃を嘴に銜えたまま上空へ飛び上がります。

 混乱している様子の死鹿たちを見上げてから、意識を集中させます。彼の位置を探るためです。

 この姿になった利点の1つ目は音に敏感であること。周囲の音を的確に聞き分け、反応することができます。

 つまり―

「デザートにしようか―”氷弾(アイス)”」

 

ドンッ!

 

 引き金を引く音を聞いてからでも、瞬時に躱すことができるのです。

 そして、二つ目は距離をとって空中から攻撃できるということ。

 俺が何故この姿を嫌うかというと、姿が鴉そのものだからです。当たり前と言っちゃ当たり前ですが、全身が真っ黒で、嘴が生えた自分の顔を見た時は何とも言えない感情が込上げてきました。能力が発現した、あの日のショックは未だに癒えていません。

 何より周りの視線が気になります。

「反応が速くなった。やっぱ、飛べるなんてズルイや。連続で外すなんてこと今までなかったから屈辱だよ。どうやら、僕は君を甘く見過ぎていた」

 振り返った時、彼は早くも銃口をこちらに向けています。

「キミはもう終わりだ―”毒蛇弾(パシリスク)”」

「えっ?」

 シャバーナより一瞬早く撃ちこんだ弾は俺の目の前で弾け飛びました。

 体の異変に気が付いたのはそれからすぐのとでした。

 脚の先から少しずつ硬直していくのが解かりました。それが寒さや恐怖からの感覚からくるものではなく、人為的な何かによってもたらされたものであることは変色した足を見れば明らかでした。

「”毒蛇弾”に直撃すると石になるんだ。神話に登場する幻獣たちの力が込められている弾だよ…って言っても分らないか」

 銃身を支える脚に力が入りません。本当は使う予定はなかったのですが、ここで賭けに出ることにしました。

 完全に身動きが取れなくなる前に石化を切り抜ける方法は―

「”八咫鴉(ジャイアント・クロウ)"!!」

 巨大化して体積を増やす。そうすれば、増加に耐えることができずに石になった部分に罅が入ると考えたのです。

「進化するんだ。でも、それって狙われやすくなるから不利なんじゃない?」

 冷静に指摘するシャバーナにゆっくりと銃口を向けます。

「そうでもないよ。”鴉円舞(クロウ・ダンス)”!!」

「速い」

 羽ばたきで起こした風の軌道に乗り、彼との間合いを詰めます。台風並みの風が吹き荒れる今が勝負を決める最大のチャンスです。

 落ち着け。

 絶対に決めるんだ。

 ここで勝って、俺たちの未来に繋げる―

 

 バヒョンッ!

 

「でも、やっぱ僕には勝てないよ」

 

 スコープを覗いた時、彼は確かに突風に呷られて狙い定められずにいました。

 なのに…?

 「穴に吸い込まれる時の僕の動き見えた」

 今度こそ、終わりだ―"氷弾"

「キミって珍しいよね?」

「…!?」

 彼の顔を視界に捉えた時には、もう手遅れでした。体全体に冷気が流れ込み、目の前が薄い膜に覆われていくのが解かりました。

「これで新しい幻獣の標本の完成だ。おめでとう、僕の収集品(コレクション)の仲間入りだよ」

 彼の微笑は、狭くなる視界の中でもハッキリと見えました。

―See You Next

スマホからこんにちは!

荒木テルと申します。小説家志望の29歳です。

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