『ちょっと待て! お前ら』
「何だ? 金は払ったぞ」
私の名前は熊田龍二。
現在、藤原哲夫という青年と共に米を求めてアジアの国・インドを訪れている。タイに続いて訪れたこの国で、ようやく入手。ついでにルウも大量購入し、あとは帰るのみだった。が、
『あぁ、確かに金はもらった。だが、お前らどうやってここまできたんだ?』
「それは…」
『見たところ、お前ら日本人なんだろ?』
いつ間のにか我々二人の後を、大勢のインド民が追いかけてきていた。
「熊田さん、大丈夫なんですか? この状況。まさか、この服装がいけなかったんじゃ…?」
「大丈夫だ。お前の服装は相手から見れば、当時の我が国のそれと相違ない。この私が、想定しうる問題に対して対処しておらぬとでも思ったか?」
青年だけに聞こえる声で呟く。
「アハハ! 確かに。後の方は何言ってるのか解からなかったですけど…とにかく、貴方と一緒に居れば何があっても心配ない、ということですね?」
「まァ、そういうことだ」
何故、苦笑している?
馬鹿にしているのか??
実に不愉快だ。
「もしかしたら、サングラスを警戒してるんじゃないですか? 取ってみてくださいよ」
「断る。もし、これを外したら取り返しのつかないことになるからな」
「顔も発言も相変わらず怖いですね…」
「青年、お前だけになら見せてもいいが」
「いや、また今度。っていうか、早く逃げましょうよ! 本当は嫌ですけど、能力使った方がいいですよね? 絶対」
「いや、それはダメだ。国外で能力を行使する認められているが、それを他者に…」
「あぁ~~、もう!! 解かりました…要するに使えないですね!!!」
「何を怒っている?」
『おい、無視するんじゃねぇよ!!』
『何コソコソしてんだよ!!!』
まったく、どいつもこいつも…何故、冷静に話し合えない?
現在のこの状況を打破するための最善の策は―
「すまない」
『あ?』
「熊田さんっ…!?」
『どうしたんだ? 急に頭なんか下げて』
「不法入国の罪は、のちにしっかりと償う。しかしなら今、我が国は不測の事態に陥っている。それ故、一刻も早く帰国せねばならんのだ」
『不法入国? そんなことはどうでもいい。それよか、その不測の事態ってなんだよ?』
「それは国家機密であるため、公表することはできない」
『ふ~ん、あの長寿命・超高度技術大国の”ニッポン”がね~』
「何が言いたい?」
『噂は聞いてるぜ。日本人はみんな”魔法”が使えるってな』
『見てもらって解かると思うが、この街の商人は貧しい奴らばっかだ。今じゃ、この国の総人口は世界一の二十億。貧富の差が生まれるのも当然さ』
男共の威圧感で私は確信した。
『お前らが来てる、って噂聞いて俺たちは集まった』
「空間転居(ワープ)してきたところを見られてしまった、というわけか」
『商品を買ってくれた客に対して申し訳ないが、これだけじゃ足りない
んだな~』
『だから、お前たちの”魔法”のメカニズムを解析し、それを政府に売れば大儲けってわけ。国にはそれが普及し、発見した俺たちは国の英雄だ』
『悪いが二人にはここで死んでもらう』
『米屋のオッサンには感謝しなきゃな。ようやくリベンジできる』
「話は解かった。要するに、お前たちは我々の敵とみなしていいんだな?」
『そうなるな』
「熊田さん、やっぱり危険ですよ…」
「あぁ、最悪だ。青年、お前は下がっていろ。一分で片づける」
「でも…」
「心配は無用だ。安全は保障する」
「分かりました。絶対に勝ってくださいね!」
まさか、異国の地で戦闘になるとは思いもしなかった。まァ、止むを得ない状況というやつか。
自分に言い聞かせるように呟いてから私は歩き出す
「ならば初めからそう言え。時間の無駄だ」
『悪いな。頭ァ堅そうだったから丁寧に言っやったつもりが…んじゃ、脳ミソもうらうぜ』
「望むところだ。下民共」
*
「あ~あ、またスー君から脱がされちゃった」
「あの、やめてその言い方…誤解されるから。お互いに納得してた上で、仕方なく裸になったわけじゃん?」
「まァ、別にいいけどさ。ていうか、早く出してよ…もう夜だし時間無いんだよ。水溜めなきゃなんだから、とにかく出して!」
「キョーちゃんこそ、ちゃんと出してる?」
現在、僕ら二人は背中を向い合せて会話している。念のために言っておくが、喧嘩したからではない。
「出したよ。3回も。っていうか女の子に普通それ聞く? 信じられない…男なら黙っておしっこしなさい!!」
「いや…何それ? 話しかけたのそっちだし、集中できないし。普通におしっこって言っちゃってるから。それに僕、海水飲みすぎて具合悪いんだけど」
喧嘩しそうになっている。
「そう? 『味覚』おかしいんじゃない??」
どっちだよ!!
いっぱい飲めば出やすいみたいだよ―間違いない。明らかに彼女のせいだ!
「それより、そっちは水溜まってんの?」
「う~ん、一滴ずつね」
人間に水は不可欠で、それは『料理』においても同じことが言える。
水を溜める方法は幾つもあるらしいが、僕らがやったっているのは二つ。
一つは、自分のおしっこから水を生成する方法。
そして、もう一つの方法に蒸留がある。
おしっこ、と連呼するのもあまり好ましくないと思うので、ここでは後者の蒸留について話そう。先にいっておくが、すべて彼女の指示で行ったことだ。
海岸で拾ってきた大きめのガラス容器に海水を入れ、その中央に僕の硬化させた拳でくり抜いた木の器を置く。
そして、ガラスが割れない程度にその下から火にかけながら、蒸気が逃げないように自分たちの服で蓋をする。あとは水滴が器に溜まるのを待つだけだ。
クマさんから聞いた話を応用して、ここまでのことを考えつくキョーちゃんはさすがだ。実行したのすべて僕だが。
ちなみに、ガラス容器を支える木が落ちないように洞窟の出っ張った部分には、彼女の『ブラジャー』が、しっかりと括り付けてある。
「姫ちゃん、遅いね…」
「確かに。何かあったのかな?」
「姫ちゃ~ん!! 帰ってきて一緒におしっこしよ~!!!」
いや、何言ってんの!?
その声が洞窟に木魂する。
どうやら、限界が近いのは僕だけではないらしい。
「鷹の蹄(ホーク・ナイフ」!!」
「あら、次は接近線? でも残念。いくら爪を硬化させても、この剣には敵わないわ」
「ぐっ…!」
片手の力だけで押されてる。ここは一旦、間合いを取って―
「ん?」
「踊る刃(ジャグリング・ナイフ)!!」
「たくさん飛ばしても、威力が足りないよ…鉄盾(シールド)!!!」
全部弾かれた!?
「ちょっと、それ卑怯じゃない?」
「戦いに卑怯も何もないじゃない。勝った者が強い…記憶を失くした今でも、誰だってすぐに解かることよ」
「…こんなこといつまで続ける気?」
「あら、もう限界? 言ったじゃない。アナタが負けを認めるまで、って」
「そんなこと絶対しない! あなたに勝って仲間のもとに『鍋』を持ち帰る―それが私に任されたことなら、限界を超えてでもあなたを倒す!!」
「ふ~ん…アナタ、小柄な割に結構オトナなのね。私、仲間を想う気持ちとかそういうの嫌いじゃないけど…今のアナタを見てると負け惜しみにしか聞こえないわ。そんなに傷ついた体で何ができるの?」
おばさんは、私を見下ろして笑っている。
何なの、何がしたいの…この人?
ホント腹立つ!!
「まァ、一度だけ後ろから抱きつかれて刺された時は驚いたけど。あれって、何ていう技?」
「…っ!」
「そんな怖い顔しないでよ」
落ち着け、私…!
この人にも弱点はあるはず。
でも、戦ってる時に隙は見つけられなかった。『剣』を構える姿を見ているだけで威圧されちゃうくらい。ただ、私身長が高い(+胸も大きい)ってだけで、戦いの経験値に私との大差はないはず。
なのに、どうして―
「じゃあ、これで最後にしてあげる。私の名前は黒鉄砂和子(くろがね さわこ)。覚えとくといいわ。戦ってくれたお礼に、とっておきの技を見せたげる」
あっ、解かっちゃった!
「ねぇ、その前に一つ聞いていい?」
私は立ち上がりながら呟く。
「何よ? 最後に言っておきたい事でもあるの??」
「あなたの髪、何で結ってるの?」
徐に彼女の頭を指差してみる。
「それは、長いと動くのに邪魔だからよ。あなたは短髪だから解からないでしょうけど」
「そうじゃなくて…何の素材で作られてるかってことよ」
「あぁ、これ? 鉄よ。でもそれが何?」
「やっぱりね」
この時、全てに合点がいった。
何で海岸で砂鉄を拾ってから、ここに来なくちゃいけなかったのか。
どうして、おばさんは私や進くんと違って体を使った技じゃなく、何もない場所から出てきたモノで攻撃できちゃうのか―
「どういう意味よ…?」
「この勝負、もらったわ!!」
「!?」
私の考えが正しければ、アレを壊してしまえば―
「金ちゃんが消えた…?」
「もう私の速さについて来れない。弱点が解かれば何も怖くないわ」
「竹の撓(しな)りを利用して跳んでる」
「これで決める…二刀流・回転刃(ツイン・ドリル)!!!」
「いくら加速しても無駄よ…それが解かったところで何も変わらないわ! 鉄鎧(アーマー)!!! これは誰にも貫けない!」
「遅いっ!!」
「なっ…!」
「ハアァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
「何でまだこんな力が…?」
「小柄だからって馬鹿にすんなっ!!」
「まさか、この私が負けるなんてことが…」
ズキュン!!!!!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
やっと終わった。
「私の名前は吉原潤美。しっかり覚えてて!」
「…っ!!」
近づいてくる私を鋭く睨むおばさん。
その髪は乱れ、服もボロボロだった。
「じゃあ、約束は守ってね」
そんなおばさんの眼前に再び回転刃(ドリル)を突き立てた。
二時間後―
「帰って来たよ~~~! 進く~ん!!…ってあれ??」
何でそんな恰好で寝てんの~~~~~~~~~~~!?」
この筋肉、最高♡
*
「てっちゃん、どうしたの?」
「あっ…いや」
朝起きると、クマさんの横で彼は怯えていた。
「これが米だ」
「ありがう! クマさん、王子」
何故だか解からないけど、これで全員揃った。
決戦まで、あと一日―
―See You Next